切り絵のマジシャン・福井利佐

2016年9月10日〜10月22日

オープニング 2016年9月9日 18時〜21時
ヨーロッパで切り絵といえば、多くの方が黒い紙にポートレイトを刻ん

だ作品や子供や貴婦人などのシルエットをかたどったものを想像されるだろう。

ドイツでヨーロッパの切り絵作品に人気が集まったのは、18世紀から19世紀中頃までのことである。

LIFE SIZED, suprise

LIFE SIZED, suprise. Jahr: 2016. Abmessung: 650 x 500 mm

アジアの切り絵は、ヨーロッパでは知られていなかったが、中国ではすでに西暦450年頃から「剪紙(せんし、ジエン・ジー)」と呼ばれた切り絵文化があった。初めのうちは、絹や金箔などを切って髪飾りとしてつくられたようだが、時代が進み、紙を素材とした剪紙が庶民の文化の中でも広がるようになった。

切り絵が日本に伝わったのは中国からで、奈良時代(710〜794年)に神様に捧げるための儀式として、この切り絵技術が使われていたとの記録がある。

切り絵が技術的に発展したのは、京都友禅の「型友禅」の制作過程で作られる「型彫り」からと言われる。

また、「紙切り」と呼ばれた江戸時代の伝統芸能は、切り絵を大衆文化として広めた功績がある。「紙切り」とは、寄席の色物として、お客の要望や芝居の一場面をハサミ一つで切り抜いていく技である。話術を使いながら、素早い時間に作り上げていく「紙切り」は、今なお受け継がれ、日本でも今なお人気があり、また世界にも紹介をされている。

福井利佐は、民芸、あるいは大衆文化としての切り絵の形を、現代のアートへと昇華させた。

彼女作品の特徴は、複雑な線が絡み合うデッサン画のようなリアリスティックな表現と、画面を構成するデザイン力ではなかろうか。

彼女は自分の作品について次のように語っている。

「私は、人物、動物、植物のように私の周りに存在するものをモチーフにし、それらのエネルギーを紙の線で表現し、切り抜いていきます。その過程の中で、それぞれのモチーフが今にも動き出すような生き生きした線で浮かび上がってくることに喜びを感じます。私自身も作品を作りながら、そのエネルギーを受け取ることができるからなのです。

私の作品は、無数の切り取られた線が面に、そして立体にと、見る人々に動きと生命力を与えることを目指しています。

私たちの日常の日々は、瑣末なことに時間や気持ちを取られ、疲れや自暴自棄な思いをもつこともあります。しかしながら、それと同時に、小さな事柄に幸せや美しさを見出し、生きる力をもらうこともあります。

私は、そんな日常の私たちの暮らしや、それを取り巻く世界に目を向け、一瞬一瞬を一本の線に切り抜いていきたいと考えています。」福井利佐は、日常への観察だけでなく、グリムの童話から、神話や伝説の中からも多くのモチーフを作リだし、彼女のファンタジーの世界へとつなげていく。

さらに彼女が取り上げる自然界のさまざまなモチーフには、彼女の鋭い観察眼の他に、必ず温かい眼差しが見え隠れする。

美しい動植物だけではなく、小さくて注目を浴びることの少ないものへも、人々からあまり愛されていない動物へも、平等に彼女の深い視線が注がれているのを感じる。

今回の展示では、アーティストであると同時に、母でもある福井利佐が目を向けたのは、小さな子供たちである。

はち切れんばかりの笑顔、自分の想像の世界に入り込んでいるまなざし、母でなければ描ききれない子供たちの姿を表現している。

福井利佐は、日本ではすでに切り絵作家の第一人者として活躍をしている。

2012年には、静岡の駿府博物館で「切り絵を魅せる〜福井利佐の世界」を開催し、5週間で6000人以上の動員を集めた。

2014年には、ポーラミュージアムアネックスにて「福井利佐 LIFE-SIZED」の個展を開き、独自の世界観を表現した。

また、デザインワーク、ワークショップ、作品集の出版、切り絵のアニメーションフィルムなど活動は多岐にわたり、切り絵の新しい取り組みを今なお模索している。

MICHEKO GALERIEでは、2012年の福井利佐の個展、「KIRI GA I」に続き、今回は「子供の時代」という副題のもと、「KIRI GA II」を開催する。子供たちの光り輝く表情を堪能していただきたい。